歯科技工を考える
いま、歯科医療補綴物の提供体制が危機的状況にある。
厚生労働省の医療施設調査(2025年1月)によると歯科診療所は6万6886施設で、前年同月比で889施設減少した。(個人1246件減少、法人337件増加)
歯冠修復物(差し歯・被せ物)、欠損補綴物(義歯)等を製作する歯科技工士は、ピーク時には3千人を超える国家資格合格者を輩出したが、2024年度では684人と激減している。
また、就業歯科技工士数はピーク時(2002年)の3万6765人から現在では4千人減少し、またおよそ7割が55歳以上である。歯科医療費の3割にあたる歯冠修復、欠損補綴関連は、歯科医師と歯科技工士の連携で成り立つ共同作業である。
それにもかかわらず、歯科技工士不足のなか、欠損補綴物製作には製作日数がかかるため不採算であるとの理由で、保険適用範囲内での義歯製作を受注しない歯科技工所も現れてきている。
さらに、今後歯科技工士不足が進めば、義歯に限らず他の保険適用範囲内での歯冠修復物や欠損補綴物も不採算だとして、受注出来なくなることが予想される。
歯科医療は、直接生命に関わる疾病が少ないため生命に関わる医科と比べて歯科の医療費が抑制され続けてきた。総医療費に占める割合は、かつて13%であったが、現在は、7%である。
近年では、特に歯周病が心臓病、脳卒中、糖尿病、肺炎などの全身疾患のリスクを高める可能性がある事がわかり、口腔ケアが全身の健康を守ためには不可欠である。
「食べること」によるQOL(生活の質)の向上、さらには健康寿命の延伸にも、適切な歯科医療はかかせない。
入れ歯や差し歯などの補綴物を提供でき得る歯科医療従事者の技術と労働力への適正な評価と対価がなければ、いくら保険料を払っても歯科医療従事者による保険適用範囲内での歯科補綴物が提供されない時代がくるかもしれない。
歯科技工業の崩壊の時期が目前に迫っている。
歯科医師、歯科技工士、政治家、国民すべてが真剣に向き合わなければならない。